
泌尿器のがん
泌尿器のがん
泌尿器のがんは、腎臓、膀胱、尿管、前立腺、精巣など、泌尿器系の臓器に発生する悪性腫瘍の総称です。これらの臓器は尿の生成や排泄に関わり、がんが発生すると、排尿機能や生殖機能に深刻な影響を与えることがあります。泌尿器のがんは早期発見が非常に重要であり、適切な診断と治療が行われれば、治癒や症状のコントロールが可能です。
主な泌尿器のがんには、腎臓がん、膀胱がん、前立腺がん、精巣がんがあります。それぞれが異なる症状や治療法を持ちますが、共通して早期診断がとても大切です。
泌尿器のがんは、初期段階では自覚症状が少ないことが多いですが、次のような症状が現れることがあります。これらの症状がある場合、早めに受診することをお勧めします。
前立腺がんは、高齢者に多いがんであり、近年の高齢化に伴い増加傾向あり、男性の部位別がんで1番多いがん(2023年)です(2番目は大腸がん、3番目は胃がん)。進行がゆるやかなタイプが多く、初期の頃はほとんど症状がありません。やや進行しても、排尿困難、頻尿など、前立腺肥大症と同じような症状が多いです。血液検査により、PSA(前立腺特異抗原)を測定することで、早期にがんを発見することができます。家族歴もあり、血縁者に前立腺がんの方が1人いれば、がん確率は約3倍、2人いれば約10倍、3人いれば20-30倍と言われております。予後はあらゆるがんの中で1番よく、適切な治療を行えば、死亡率はかなり低いです。とはいえ、進行がんで見つかった場合は、当然大変ですので、早期発見が重要であり、55歳を超えれば、定期的なPSA検診、家族歴のある方は50歳を超えれば一度はPSA検査を受けることをお勧めいたします。
まず超音波による前立腺の大きさチェック、必要に応じ、直腸診、MRIによる画像検査を行います。がんの可能性が高いと思われた場合は、前立腺生検(前立腺組織を針で採取して、病理検査を行う)にて、確定診断を行います。がんと判明した場合は、転移の有無の画像検査を行い、治療法を決めていきます。がんではなかった方も、前立腺肥大症、前立腺炎など紛らわしいことも多く、PSA検査の定期チェックが無難です。
早期がんで比較的若い方なら、手術療法(ロボット支援前立腺全摘術)、放射線療法(重粒子線治療)などの根治療法の対象となります。高齢の方、転移のある方などはホルモン療法(男性ホルモンを低下させる治療)を行います。治療効果などは、PSA検査により、判断します。
転移のある進行がんで見つかった方でも、5年以上生存される方も珍しくなく、80歳以上など高齢の場合は、がんと判明しても、初期の間は治療せず、PSA値を定期チェックし、悪くなってから治療を行う待機療法などもあります。
ホルモン療法も強力な治療ですが、2-3年たつと、効かなくなってくることも多く、一定期間ホルモン療法を行い、中止し、再度悪化した頃に再開するといった間欠的ホルモン治療を行うことも多いです。
ホルモン療法が効かなくなったがんを去勢抵抗性前立腺がんと呼びますが、新規薬剤や抗がん剤加療で効果が得られることが多く、かなりの進行がんですが、この時点でも1.5~3年程度の余命が見込まれます。
当院では、これまでの経験・治験を生かし、一人一人、最適な治療を相談して決めて行きます。手術療法、放射線療法、抗がん剤治療などが必要な方は、近隣の最適な病院へ紹介いたします。ホルモン療法、術後・放射線療法後の管理は当院にて対応可能です。
膀胱は、腎臓で作られた尿を貯めておく下腹部にある袋状の臓器です。膀胱壁の内側の粘膜(尿に接する部位)に発生するがんが膀胱がんです。50歳以上の男性、喫煙者に多く、有機溶媒等の仕事に携わる方に多く見られます。初期の頃は無症状であり、大きくなるにつれ、血尿が出現してきます。痛みや頻尿など他の症状が乏しいことが特徴です。いったん血尿が出ても、しばらく出ないことも多く、受診が遅れることもありますが、一度でも肉眼的血尿が出れば、早めの泌尿器科受診をお勧めいたします。ご高齢の方で血尿に気づいていたが、半年~1年してから受診され、進行がん、手遅れになってしまった方も珍しくありません。検査は尿検査、超音波検査、膀胱鏡検査などを行います。早期がんの場合は、内視鏡手術により、がんを切除します。再発率は高く、術後も定期的な超音波検査・膀胱鏡検査などが必要となります。局所進行がんの場合は、膀胱全摘術。転移を有するがんの場合は、免疫チェックポイント阻害剤、抗がん剤治療となります。早期に発見されれば、それほどでもありませんが、進行がんとなると一気にQOL(生活の質)が落ち、予後も悪くなります。
腎臓は腰の裏付近、左右2個あるこぶし大の臓器です。血液中から老廃物を取り出して尿を作る臓器です。他、造血やカルシウム代謝などの働きもあります。腎実質という尿を作る細胞ががん化したものが腎臓がんです。初期の頃は無症状であり、相当大きくなった頃に、血尿や腰背部痛が出現します。体の奥であり、症状が出にくい特徴があります。
診断には、超音波検査、CT検査などで行います。良性疾患との区別がつきにくい場合などはMRI等を行うこともあります。
早期がんの場合は手術、小さながんの場合は腎臓をすべて取らず、がんおよび周囲のみを取り除く、ロボット支援腎部分切除術が可能です。他、やや大きめのがんの場合は、腎臓全部摘出する腹腔鏡下腎摘出術などが一般的です。
転移のある進行がんの場合は、手術の他、免疫チェックポイント阻害剤などの治療となります。やはり早期発見が大事ですので、検診、人間ドックなど定期チェックをお勧めいたします。
精巣(睾丸)は陰嚢内に左右2個あり、精子を作る働き、と男性ホルモンを分泌する働きがあります。主に精子を作る細胞ががん化したものが精巣がんです。頻度は10万人に1人と低いですが、20-30代に多く、停留精巣(精巣が陰嚢内へ降りてない)の方に多く、遺伝性もあります。
精巣にしこりができる、大きくなるなど自分で発見されることが多いです。診断は触診、超音波、血液検査(腫瘍マーカー)などで比較的容易です。転移の有無確認のためCT等も行います。進行が速いものが多く、診断後、早々の手術療法となります。摘出した病理検査、画像検査により、方針が決まります。
早期がんの場合は、摘出後、経過観察となります。進行がんの場合は、抗がん剤加療となりますが、抗がん剤が非常に効くタイプが多く、予後はかなり良好です。場合により、放射線療法、追加手術(後腹膜リンパ節摘出術)を要することもあります。
若い方で陰嚢が大きくなっていることに気づいていても、恥ずかしいからと、受診をためらう方がおられます。相当大きくなってから、受診される方もたまにおられます。気持ちは分かりますが、病気は待ってくれず、遅くなればなるほど、大変になります。泌尿器科医は恥ずかしい病気、もっと恥ずかしい病気にも慣れてますので、なるべく早く受診しましょう。命に関わることもあります。
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